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若手の会の思い出

日本土壌肥料学会2011年度つくば大会
大会運営委員会委員長 東 照雄

 昭和48年夏、もう既に38年も前になるが、比較的鮮明に記憶している。当時、日本土壌肥料学会には「若手の会」(現在の名称と同じ)があり(大学院ゼミナールとも呼称されていた)、全国の大学院生を主体にした若手(自称「若手」も含む)による若手のためのセミナー形式の「集い」が、毎年、企画・運営されていた。全国の大学が順番で当番校となり(年次大会とは関係なく)運営されていたと記憶しているが、昭和48年夏(8月3日から4日)は、私は九州大学土壌学研究室に所属しており(修士1年)、九州大学が当番校で、九州の典型的な黒ぼく土地帯である九重(久住)の青年の家で開催された。企画は、当番校に任されており、最新の土壌生成分類(菅野一郎先生、九州農業試験場)、土壌学の発達と土壌物理学の発達(木下 彰先生、九州農業試験場)、火山灰土における土壌有機物の集積(品川昭夫先生、鹿児島大学)に関する講義をして頂いた。先生方には当時の最新の知見を含めて講義して頂いたものの、私は修士1年であったから、当然、十分に講義内容を理解していなかったとは思う。しかし、大いに知的好奇心と探究心を触発されたのを今でも覚えている。「土壌とは何か?」という土壌科学の根本的な問いに対する私なりの回答を持っていたとは思えないが、若手の会の講義から得られた新しい研究情報は、当時の私に“土の存在をより動的に把握するという視点の重要性”をしっかりと芽生えさせてくれた有意義な機会となった。
 ところで、「人の一生は、どんな人と邂逅し、どんな影響をお互いに受けたのかにより、大きく変わる」と言われる。標準的な人の一生で、会話できる人の数は数千人ともいわれる。多いようで、生涯の年数を考えると、案外と少ないように私には思える。出会った人を大切にしなければならない所以である。また、「愚友100人より賢友1人」とも言うが、私は、「若手の会」で出会った当時の大学院生に今でも感謝している。彼らは、学問上の大切な友人であり、お互いに忌憚の無い論議ができる仲間であったし、その後の私の研究に大いに影響を与える存在ともなった。中には、その後、長い問、お付き合いをしてきた人もある。とくに、当時、私が関心を持っていた研究テーマである“土壌中における有機・無機成分の相互作用”について、活発な論議を頂いたことを今でも感謝している。お蔭さまで、指導教員のご指導もあり、修士論文の内容を2報の英語論文として、国際誌に公表することができた(1976年と1977年に、当時のイギリスの土壌学誌J. Soil Scienceに掲載)。とくに、最初の論文は、研究成果が得られ公表して37年も時が過ぎた今でも、論文に引用されていて、私にとっては生涯で大切な論文となった。
 以上、とりとめも無く書いてきたが、兎に角、大学院生のような感性の高い若い時代に、同世代の仲間と同じ物理的空間(時間とスペース)を共有し、互いに影響しあう雰囲気を経験することは、大いに意義深いものであることは間違いないような気がする。是非、積極的に「若手の会」に参加して見てはどうであろうか(勿論、可能な限り、受動的ではなく能動的に)。必ずや、大きな成果が得られること必至である。“若い時代は2度と帰らない”のはとっくに承知しているが、いたずらに埋没した空間で自分自身では納得がいかない意義の乏しい時を過ごすより、大いなる好奇心と探求心を持って、直面することになるであろう将来の研究上の困難にもめげず、それを乗り越えて土壌科学や植物栄養学などを中心とした学問をさらに発展させ、社会に貢献できる人材になって欲しいと思います。

2011年4月20日 記

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